尾道と尼寺

常称寺

尾道には山陽一の遊女街があったが、それにも増して山陽道一の尼寺があったことはあまり知られていない。

この欄でも書いたことがあるが(尾道のもうひとつの裏の顔)、江戸幕府の隠密の指揮場所、もしくは変装する場所として使われていた時宗の常称寺がある。足利尊氏の寄進によって、1309年に建立された古寺で、国の重要文化財が五つもある。豪勢な寺院であったが、今は当時の面影はない。

この常称寺に尼寺があった。-小栗庵、慶徳庵、福泉庵、布施家之庵、珠数屋、松之寮とあった。尼寺小路の名称もあったが、今はこの名さえ消えてしまった。時宗西郷寺にも尼寺が三つあったそうである。(庵は小さな僧房のこと。寮も同様。)

明治時代にも三庵が残っていたが、大正十二年に最後の庵主(あんじゅ)さんが、他界されて、尼寺は無くなってしまったので、石倉一光住職が、「尼寺掟目」という小文を残しておられるので、そのことについて想像してみた。

この尼寺は、ある程度自治が認められていた。お針(さいほう)を教えていた。港(尾道の)の人々の着物の仕立て直しをしたりして、生計を立てていた。尼寺として、『庵主は、朝夕「経」をとなえ、草花を絶やしては成らない』などの掟があった。

しかしこの掟目をみると

  1. 各庵主の席順がきびしく定められている。(席順でもめたことが分かる)
  2. 着用について、絹、麻、木綿、とある。(これは、絹と着ていた人がいたということ)
  3. 庵主がたびたび出奔している。帰ってきたときは、席順を一番下にして迎えている。(男と逃げたに違いない)
  4. 子供をもらっている。捨て子や事情のある子供を養子にして、針仕事を教えて生きていけるよう教育している。
  5. 旅人を泊めている。男を泊めてはいけない、とあるのは、男を泊めた尼寺があったということである。
  6. 再度、「男を泊めてはいけない」とあるのは、たびたび男を泊めた尼寺があったことが分かる。
  7. 「酒宴の貸座敷にしてはいけない」とあるので、三味線をひいたり酒宴をしていたことがうかがえる。
  8. 「手遊び勝負(ばくち) を禁じる」のは尼が「ばくち」もやっていたと思われる。

尾道に尼寺が沢山あって、そこに離縁したり不幸があったりした女性が尼になり、仏門に入って生きたという、江戸時代、明治時代があり、今はもうない、ということである。

今日、「時宗」に限らず「創価学会」などの新興宗教は女性が活躍している。

しかし、時宗の祖、「一遍上人」は女性の教育に努められ、遊行中女性が付き従っている。尼さんが一番多いのも時宗であった。尾道に尼寺がひとつでも残っていたら、と残念に思う。

以下の小文は、石倉一光住職が記したものです。また、「尼寺掟目」は、住職が写されたものの一部を抜粋させて頂きました。

常称寺「尼寺掟目」について

備後国後地村(尾道市久保町)尾陽山願王印常称寺は、遊行二祖真教上人の開基で足利尊氏の寄進によって延慶二年(1309年)に権立された古寺で、江戸末期までは、祇園牛頭天王を祀る神殿があり、豪勢な寺院でした。

現在の大門の棟瓦には、昔を偲ぶ三種の巴の紋が残っています。当時の末寺は滋観寺、海福寺、成福寺、極楽寺、正覚寺、二之寮があり、尼寺は小栗庵、慶徳庵、福泉庵、布施家、南之寮、珠数屋、と他寺所蔵と思われる王蔵庵、松之寮と山門の中に並び立っていた古図でうかがわれます。

明治以降もしばらく三庵では庵主さんがお針を教えられており、最後の庵主さんは大正十二年頃に他界されて庵の姿も消え、今は尼寺小路の名称だけが寂しく残っているだけです。

「尼寺掟目」は、本坊常称寺が庵寺の掟として天保十四年(1843年)に定められたものです。去る11月13日文化の日、晴朗な秋日和を利して常称寺に訪れ、山主から古い名号数軸を見させて頂き、最後に「こんなものがある」と出して頂いたのがこの「尼寺掟目」でした。なかなか面白いところがあるので、楷書に改めて写させて頂きました。

-石倉一光著-

「尼寺掟目」

往古より相続有之候尼寺に候得ども是と申法式定例も無之本坊諸式之勤方等人々思々に取計一統申合之掟等有之候得ども時之一老庵主之了簡に依て間違甚以不次第の儀も有之仏法僧法之定式無之甚以下宜在候に付此度荒々定例相定置候間己後心得違無之様急度相守可申ものなり
天保十四年卯年九月十五日
常称寺 卅三世 其阿上人
  • 何事によらず本坊の下知急度相守可申候尼寺之儀は住職の節たり共本山へ御願ひ申候事も無之公辺へ御届け申候儀も無之唯本坊の思召次第に候得ば本坊の下知相背候ものは急度曲事可申付事
  • 公儀御法度之趣益国法相背申間敷候別而近来公儀御厳重之被仰出に候へば随分神妙如法に寺務いたし候事肝要に候万一不相用酒宴益不如法相募り候節は急度可之沙汰候事
  • 宗風急度相守申候事
  • 朝暮誦経念仏益香花等由断有之べからざる事
  • ・・・・・・・

Popularity: 100%

No related posts.

One Comment

  1. [...] 前回、尾道の「尼さん」について記した。 [...]

Leave a Reply

「"尾道と尼寺" について貴方のお考えをどうぞ」

コメントは承認待ちです。表示されるまでしばらく時間がかかるかもしれません。